明治期の教科書その3
更新日:2025年4月5日
4:あたらしい知識
江戸時代、寺子屋でおしえられていたのは「読み書きそろばん」でした。藩校では漢籍が主で西洋の学問は一般的ではありませんでした。明治になって、西洋の知識を一般にもひろめて国家の近代化をはかろうという政府の方針により、小学校にもたくさんの新しい教科が生まれました。算術(『筆算題叢〔ひっさんだいそう〕』)、化学(『小学化学書』)、理科(『牙氏初学須知〔がししょがくすち〕』)、物理(『小学人身窮理〔しょうがくじんしんきゅうり〕』)、世界史(『万国史略〔ばんこくしりゃく〕』)、世界地理(『万国地誌略〔ばんこくちしりゃく〕』)などです。いずれも小学校の高学年でつかわれていたとされますが、高度な内容です。先生にもよくわからなかったのではないでしょうか、説明して理解させるよりも、ただ本をよむのが教え方の中心だったそうです。
『筆算題叢』
〔ひっさんだいそう〕『小学人身窮理』
〔しょうがくじんしんきゅうり〕
『小学人身窮理』
〔しょうがくじんしんきゅうり〕『万国地誌略』
〔ばんこくちしりゃく〕
5:さまざまな教科
地方で出版された教科書には、文部省や師範学校など東京で編集されたものと、地方で編集されたものがあります。

『改正愛知県地理誌』
〔かいせいあいちけんちりし〕
『改正愛知県地理誌〔かいせいあいちけんちりし〕』などはそれぞれの県でつくられた地理の教科書です。全国の地理を学ぶ前段階として、まず身近な地域を学ぶため、地方誌が編集されました。明治7、8年から10年代にかけて、ほとんどの府県において小学校用の地方誌教科書がつくられました。
このほか、家政学(家庭科)(『経済小学家政要旨〔けいざいしょうがくかせいようし〕』)、体操(『体操書』)、画学(美術)(『西画指南〔せいがしなん〕』)のような新しい教科の教科書もありましたが、習字のように寺子屋の手習いでもあった教科だからか往来物(『小学習字本』)のような教科書もつくられていました。やがて、西洋の教科書をそのまま翻訳するのではなく、実際につかえるように日本の実態にあわせた教科書もつくられました。『小学普通画学本』は美術の教科書ですが、日本的な重箱やあんどん、座机などの日本的なモチーフもとりあげられています。
『体操書』
『小学普通画学本』
『小学普通画学本』
ご利用いただくには
明治期の教科書は、貴重書庫に入っていますが、どなたでもご覧いただけます。
目録もありますので、カウンターでお尋ねください。
今回ご紹介した以外にも、当館では約1,250冊の明治期の教科書を所蔵しています。
ぜひ、ご利用ください。
参考文献
この他にもたくさんの資料を所蔵しています。
図書
- 『教科書の歴史』唐沢富太郎(創文社)
- 『教科書』(岩波新書)山住正己(岩波書店)
- 『教科書の社会史』(岩波新書)中村紀久二(岩波書店)
- 『図説教科書のあゆみ』海後宗臣ほか(日本私学教育研究所事業委員会)
- 『近代日本教科書総説 解説篇 / 目録篇』海後宗臣ほか(講談社)
- 『往来物の成立と展開』石川松太郎(雄松堂出版)
- 『尾張の書林と出版(日本書誌学大系82)』岸雅裕(青裳堂書店)
- 『日本の生活100年の記録 3 こどもの生活の100年』佐藤能丸・滝沢民夫監修(ポプラ社)
- 『図解むかしのくらし 教科書がよくわかる 7 ことばと文字』学研
- 『国語の教科書は、なぜたて書きなの?』高岡昌江(アリス館)
教科書の復刻
- 明治期の教科書 その1(はじめに・往来物と「学制」公布)
- 明治期の教科書 その2(あたらしい知識・さまざまな教科)